世の中には、感情表現がとても豊かな人もいる一方で、ほとんどそうしたものを見せずに淡々と過ごしているように見える人もあります。人によって、同じ場所で同じ時間に同じように体験したことでも、ある人はとても大きく反応し、別の人は別段何の感情もかき立てられないということもあります。
一般にはそれが個性だと思われている部分もありますが、感じ取る能力である感受性も、それを表現する力も、実は私たちの内面的な心の構造が大きく影響しています。
「感じても大丈夫」と自分を開いていれば、感覚を遮断せずに様々なものを感じ取れるでしょうし、感じたものを表現することを自らに禁じていなければ、自在にそれを表現できるわけです。
けれど私たちはしばしば、自分を守るために感じる感覚を遮断したり、表現することを禁じたりします。そうすると、感覚は鈍くなり、感じていても自分では全く気付かないこともありますし、気づいていても表現できないので持て余し、苦しさが募るということがあります。
一方で、とても感受性が強く、感じすぎて辛いという方もありますが、両者の在り方は正反対のように見えて、どちらもそれぞれの在り方でいることに、自分にとって欠かすことのできないメリットがあるというところは共通しています。
いずれにせよ、閉じすぎず開いていても大丈夫なバランスの取れた在り方を見つけることが、こうした傾向を持つ方たちには大切なテーマとなって来るでしょう。
そのバランスの取れた在り方を体現していくには、苦しく辛い感情に対する対処の仕方を学ぶことです。それらはあまりに辛すぎて、触れてしまったら死んでしまうかもしれない!と思えるほど、私たちはひどく恐れ、反応してしまいます。
けれど本当は、それを受け止めて生きていく力が私たちにはちゃんと備わっているのです。ただ、どうすればそれができるのか、私たちの多くは学ぶ機会がなかったのです。
親も学校の先生も、「気持ちを切り替える」とか、「気にしない」「忘れてなかったことにする」など、感情の性質からすればあまり適切とは言えない対処法を、自分たちが上の世代から教わったように下の世代に教えたでしょうから、それ以外に方法があるとは想像もしないことだったかもしれません。
上記のような対処をしても、辛い気持ちがすっきりと無くなるわけではありません。頭で納得させようとしても、無かったことにして切り捨てても、どこかで痛みがじくじくと滲んでくるのを、私たちは体験しているだろうと思います。
ワークをしようと思っても、感情をほとんど感じられないという方も多くいらっしゃいますが、その場合は、自分に感じることを許していないのです。セッションでもこうしたケースにしばしば出合いますが、この場合はその禁止を解いていくプロセスが必要です。
禁止がかかった状態で、頭でいくら「感情を感じるんだ!感じても大丈夫だ!」と言い聞かせても、この禁止が外れることはありません。なぜなら、感情に思考で対処しても、それに触れ、働きかけることはできないからです。
この禁止について、構造的に理解しておくといいことは、禁止の奥には必ず、「痛みの感情を伴った経験がある」ということです。
たとえば、泣くこと、悲しむことを自分に禁じている人がいるとします。この人は故無く自分にそれを禁じているわけではないのです。必ずそうするきっかけとなった出来事があったのであり、それは「避けるべき痛み」として体験されたはずです。
親から「泣くことは恥だ」と言われたとか、悲しんで弱みを見せたときにその姿を人から責められたりからかわれたりしたとか、弱みを見せた隙に良いように利用されたなどといったことがあったかもしれません。
その体験が一体どんなものだったのか、ただ意識をその痛みの存在に向けたとき、「あぁ確かに親からそう言われたことがある」とか、すぐに心当たりがあるのであればいいのですが、そうでないなら、頭で考えて思い出そうとはしないでください。
マインドで掘り下げてワークを進めようとしてもうまくは行きません。
こういう場合は、自分の身体をしっかりと感じながら、「もし泣いてしまったら、悲しんでしまったとしたら、一体自分はどうなるだろうか。何が起こりそうか」と問うてみます。
そのとき、何となく悲しみの中で我を見失って動けなくなってしまいそうだとか、絶望して立ち上がれなくなってしまうなど、何かしら「こうなってしまいそうで嫌だ」というストーリーが出てくると思います。それを詳しく掘り下げていくと、今世か過去世の何かしらの出来事が出てきます。
ワークではしばしばそうしたストーリーの詳細を見ていくことをするのですが、なぜそれをするのかというと、より具体的な痛みの輪郭を捉え、そしてその生々しい質感に触れるためです。
こうして捉えた痛みの感情を受け止めていくと、あなたはもうその感情に対して責任を取れる自分に変容しています。すると、その感情を感じることを止める理由がなくなるので、禁止が外れます。
その状態で改めてその出来事を振り返ってみれば、以前とは全く感じ方も、捉え方も、そして行動も変わっている自分に気づくでしょう。
ワークでは、このように感情の構造を理解していることで、どこにどうアプローチしたらいいのか、感情の封印を突破する糸口を見つけやすくなります。
少しずつ学んでみていかれると、気づくことがあるでしょう。