「粋」という美意識と心意気

なかなかに気持ちも沈みがちな世相なので、
今日はちょっと目先を変えた話を。

私は生まれも育ちも東京下町深川で、
アラフィフのこの年齢で一度も引っ越しとか
したことがないという、ある意味
珍しい人生を送っております。笑

女性だったら結婚とかして
住む場所も変わることは多いし、
就職で家を出る人も多いのにね。

どういうわけか、そういう縁に恵まれず、
ず~~っとこの土地から離れたことが
ないのです。

3人兄弟の一番上の長女で、
下の弟たちはさっさと家を出て
別に住んでますが、私だけいまだに
実家に居座ってるわけですね。

ある人には「座敷童」とか
言われておりますが。。。(^^;

まぁそれはそれ。

東京の下町って言うと人情がウリみたいな
イメージがあります。

でも最近は、この土地で生まれ育った人も
なかなかに少なくなり、町内見渡しても
結構外から来た人は多いですね。

うちは曽祖父の代からなので、
農家さんみたいに十何代も続いている家から
見ると、まだまだですが、

それでも、家が商売をやっていたので
お客さんの中には先々代のころからの
お付き合いという家もあります。

そんなお客さんの中に、ものすごく
江戸の洒落と粋(いき)を体現したような
ご隠居さんがいて、うちの母をとてもよく
かわいがってくれていました。

もうずいぶん前に亡くなられたのですが、
店に来ると、色々と面白おかしく
江戸の粋を教えてくれる方でした。

あまりに粋すぎて、
無教養で凡人の我が家の家人などは
なかなかついていくのが大変でした。

なにせ、ちょっとした言葉の中に
歌舞伎や落語だののセリフがすらっと
入ってくるし、

そういう文化的な教養の下地がないと
わからないような話し方をされるんですね。

私自身はそんなに接する機会はなかったのですが、
母は、おじさんには本当にいろいろなことを
教えてもらった、あのおじさんはすごい、
とその方の話が出るたびに、
懐かしそうに言います。

もうあんな粋なご隠居さんは、
いないですねぇ。

そのご隠居さんが、
江戸の洒落言葉が消えていくのを儚んで、
こういう文化もあったんだって
残しておきたいと思われたのでしょう。

亡くなる何年か前に、ご自分で
「江戸洒落言葉賑(えどのしゃれことばのにぎわい)」
という冊子を作って、母に贈ってくれました。

手書きの原稿をコピーしてホチキスで止めたもの
ですが、今でも聞くなぁという言葉もあれば、
ちょっと考えないとすぐにはわからないとか
いう言葉もあり、なかなか楽しいです。

いくつか例を挙げると、こんな感じ。

そば粉のうどん→長続きしない
焼けたがま口→口ばっかり
日光の手前→いまいち(今市)
出前の催促→今出たばかり
昼間の幽霊→こわくねぇ
壊れた肥桶→手も足もつけられない
カエルのへそ→あるわけない
化けそこなった狸→尻尾を出した
ゴム紐の伸びたパンツ→しまりがねぇ

面白いでしょ?
思わずくすっと笑ってしまうような
江戸人のユーモアを感じます。

ちなみに、ここには書けないけど
下ネタバージョンもあります。笑

どんな言葉を使うかって、
人の精神性とも深くかかわっていますが、
こういう言葉を使っていた江戸人って、

ちょっとした日常の中に楽しさや面白さ、
知恵を見出しながら、人生を楽しんで
たんだろうなって思います。

すんなり言えばいいことも、
ちょっとひねる。
それが知恵ですね。

しゃくし定規にバンと出して終わり
じゃなくて、何でもないことにも
ひと工夫、ふた工夫する。

江戸人の粋って、このひねりがミソで、
見てすぐわかるようなものをひけらかすのは
「野暮(やぼ)」なんですね。

要するに、ダサいわけです。

そのご隠居さんも、見えない着物の裏に
ものすごいお金をかけてたり、
普段はほとんど人には見せないような
小物の意匠がとんでもなく洒落ていたり。

そういうものがちらっと見えたときに、
思わず唸っちゃうんです。
参りました~!って。

江戸人は、行動もそういう美意識が
ありますよね。

人の知らないところで、みんなが良くなるような
動き方をする。それで、みんなが喜んで、
誰がやってくれたんだろうね?っていうのを
ひそかにどこかで見ながらほほ笑んでる、
みたいなね。

別にそこには、自分の手柄を認めてほしい
なんて思いはなくて、それがわかるように
やるのは、野暮なんです。

そんな風に、みんなが喜んでくれるような
ことができるには、日ごろからみんなの心を
知ってないと、単なる押し付けになって
しまいます。

今は地元でも、そういう美意識を持ってる人は
あまり見かけなくなったなぁなんて
思うのですが、

誰かのために、一肌脱ぐかっていう心意気は、
なんだか見ているこちら側もワクワクするし、
心が奮い立ちますね。

私も一緒にやらせて!みたいな。

そういう思いが集まって、祭りのような
沈んだ世相を奮い立たせる何かが
できたらいいですね。

日本人の心意気、見せていきましょう!

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