自身の正当性にしがみつく弊害

ずっと前にも書いたことがあるのですが、
自身の正当性にしがみつくことについて、
思うことがあったので書いてみます。

自身の正当性、たとえば人間としての美学とか
倫理観、常識、成功哲学などに基づいた
その人の生き方の指針のようなものです。

それは体験と実績に基づいた確たる信念
のようになっているがゆえに、そう簡単に
崩れたり手放せるようなものではないでしょう。

「正当性」という表現の通り、本人はそれが正しいと
信じて露ほども疑っていませんから、
そもそもそれを手放そうとはしません。

余程のことがない限り、それについて
見直してみるということもしないでしょうし、
変える必要があるなどとは思わないわけです。

世間から見ても、そうだよねって賛同を
得られることも多いので、それが本人にとっては
「ほら、そうでしょ」とますます信念を強固にして
絶対だと思わせる根拠になるわけです。

それが人生の中でうまく機能している内はいいのですが
しばしばこの正当性を盾にする在り方が、
当人の成長を妨げ、人生を硬直させる要因に
なっているのを見かけることがあります。

でも、本人はそれが障害になっているなんて
夢にも思わないんですね。

そういう人にお話を聞くと、しばしば
それ以前にも何らかの指摘を受けたことがある
という方が多いのですが、方向転換までは
至らないのです。

これを方向転換するのは、かなり大変なんです。

なぜかと言うと、その人にとっては自身の
アイデンティティの骨子と言えるようなものであり、
それによって人生のあらゆる側面が支えられているわけなので、

それを変えようとしたときに、
ある種のアイデンティティの崩壊のようなプロセスを
必然的に通過しなければいけないからです。

けれど、人生が今行き詰っているとしたならば、
人生が促しているのは、これまで人生を支えてきた
その正当性を手放し、根本から在り方を変えていく
プロセスに進むことです。

恐いですね~。自分がなくなってしまうように
感じるかもしれません。

実際、正当性に限らず、自分を支えてきたものを
今まさに手放していこうとしている方たちの多くが
いうのが、「自分が消えてしまう」って台詞なのです。

でも、実際消えるのは、
正当性によって支えられてきたエゴであり、
その方自身がなくなってしまうわけではありません。

そう頭でわかっていても、この恐怖を乗り越えていくのは
なかなかのことなのですね。

しばしば、こういうお話をさせていただくと、
するっと話題をすり替えたりして逃げていく方も
少なくありません。

自分では逃げている、という意識もないでしょうけれど、
そこは突かれたくない、というエゴの抵抗なのです。

ではなぜ、こんなにも自分を支えてくれている
正当性が、成長を妨げる障害になってしまうのでしょうか。

一番は、相手の話に聞く耳を持てなくなってしまうことが
挙げられるでしょうか。

正当性が自分に在るのだとしたら、相手の言うことは
必ず間違っており、耳を傾ける価値の無いものになります。

そして、間違った意見は正さなければならない。
すなわち、私の考えを受け入れなければならない、
となります。

言葉で書くとかなりえげつなく聞こえますが、
でも、要はそういうことですよね。

こういうポジションの相手に話しかけられることを
想像してみてください。

話したくないですよね。(^^;
まして胸襟を開いた本音のやり取りなんて、
話す前から不可能だとわかるでしょう。

そもそも、コミュニケーションが成り立つような
状態ではないわけです。

こういう人が、あなたのことをわかりたいんだ
と言ってきたとしても、本音のところは
そうではなくて、

結局は、あなたの間違った意見を自分の意見に
変えさせたい、というのが本音でしょう。

これ、パートナー同士とか親子とか友人、
職場の上司部下など、様々な関係性の中でも
よく見られる構図です。

これがコミュニケーション不全の
ひとつの要因になっていたりするんですね。

でも、本人はわからないのです。
自分は正しいことを言っているのに、
どうして伝わらないんだろう?って。

本当にコミュニケーションを成立させたいのなら、
いったんその正当性から降りて、相手の意見を
ニュートラルに聴き、受け止めるスペースを
持つことが必要です。

正当性にしがみつく人は、
これが苦痛なのですね。

自分がそうしているところを
じっと感じて見てください。

多分、とても落ち着かない気持ちになるでしょう。

自分が正しいと思っていたことが
もしそうではなかったとしたらどう感じますか?

自分が間違っていたかもしれない可能性を
受け入れることを想像したときに、
どう感じるでしょう?

その混乱した気持ち、苦痛を統合していくことで、
相手の話をニュートラルに聴き、違う可能性に
自分を開いていくことができるようになります。

硬直した「正しさ」の中で閉じ込められていた自分が、
新たな可能性の光を見出すのです。

自分の正しさを手放すことは、自分が悪者になること
とイコールではありません。

それは敗者になるということでもないし、
自分が堕落する、どうしようもない存在になること
でもありません。

今行き詰って苦しさを感じているのなら、
恐いかもしれないけれど、新たな可能性がある
ということに、心を開いてみてください。

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