私たちはしばしば、湧き上がっている感情を感じたくなくて、瞬間的にその感情に反発する思考でフタをしたり、別の感情をかき立てて根っこの感情を隠してしまうことがあります。解放のためには、個の根っこの感情まで戻って気づいていくことが結構重要なポイントになるのですが、今日はこの辺りについて書いてみます。
感情は、深く感じて行くほどに、奥から違う感情が湧きだしてくることがよくあります。たとえば、蔑みの奥から怒りが、怒りの奥から恥ずかしさが、あるいは悲しみや無力感、絶望などが出てくるといった具合に、まるで層になっているかのようです。
奥に在るものほど最初に感じていた感情なのですが、これがどうにも受け止め難く居心地が悪いので、違うものにすり替えていくのです。
絶望や無力感よりは怒りの方がまだ感じやすいですし、怒りよりも蔑みの方が、より自分が生々しい感情からは離れているように感じられます。
このポジションまで来ると、不快ではあるものの絶望を感じているよりはマシなので、ここで安定させて、自分を守っているのです。
ここで仮に、根っこの感情をすり替えた別の感情を「2次的感情」と呼ぶことにします。この「2次的感情」にはいくつかありますが、憎しみや恨み、羨望、嫉妬、怒りなどがこれに当たるかと思います。
まず怒りについてみていきましょう。
レナードによると、怒りの感情は、「して欲しいことをしてもらえなかったとき」または「して欲しくないことをされたとき」に湧き上がってくる感情だといいます。そしてその奥には、「傷ついた気持ち」があります。
私たちは心が傷つくと、とても弱く感じるので、その反動として瞬間的に怒りを湧き上がらせます。怒りはとてもパワフルですから、弱々しさを吹き飛ばしてくれるのですね。
ですから、いつも怒っている人は、心の奥にたくさんの傷を抱えているのだと見ることができますし、怒ることで周囲を圧倒する態度を取る人は、実は深いところで自身の弱さ、無力感などに苛まれている部分があると見ることができます。
つまり、怒りはこうした傷ついた気持ち、パワーとは反対の無力感などの2次的感情と言えるでしょう。
また、憎しみについて見ていくと、憎しみは他者から何かひどいことをされてショックだったり傷ついたりした気持ちがベースにあります。それが怒りに転じ、その痛みが「あいつのせいだ!」と、より積極的に「相手を傷つけてやりたい!」という想いに転じたとき、その感情が憎しみになります。
つまり憎しみは、自身が傷ついたその痛みを、相手に向けて押し付けるようなベクトルを持った感情なわけです。
恨みも憎しみと同様の感情ではありますが、恨みの方がより積極的に相手を害しようとする行動のベクトルが大きいような気がします。
羨望や嫉妬は、どちらも「自分には無い」と思えるものを他者の中に見たときに湧き起こる感情です。ただ、両者はその感情の転換の仕方に違いがあります。
「自分には無いけれど、相手にはある」という状況で、「自分には無い」という部分が強くクローズアップされると、悲しみや劣等感、無力感や絶望等の感情がかき立てられます。そしてそれが怒りに転じ、さらに外に向けられたものが嫉妬になるわけです。
一方、同じ状況で「相手にある」という部分がクローズアップされると、自分には無いものの、それを持っている相手に接することで、「自分には無い」という痛みが癒されたように感じ、心地よくなります。
その心地良さに引っ張られた状態の感情が、羨望と言えるでしょうか。
嫉妬と羨望を比べると、羨望の方がポジティブに思えるかもしれませんが、自身のセンタリングを外れているという点では同じであり、その根はやはり「自分には無い」という悲しみや無力感、無価値感などがあるので、表現の方向性の違う同じ根を持つ感情だろうと思います。
ここまで、「2次的感情」について説明してきましたが、感情解放ワークにおいては、表面的な「2次的感情」をある程度受け止められたら、さらにその奥にある根の感情までしっかり受け止めていかないと、「2次的感情」は完了しないでしょう。
根が残っている限り、また出てきてしまうのは当然です。
たとえば、憎しみを「憎い憎い憎い」と受け止めたとしても、それだけではすっきりしないでしょう。なぜそんなにも相手を憎んでいるのか。そこを掘り下げなければいけません。相手にひどいことをされて、そこでどんな気持ちになったのでしょう?
憎しみの奥の怒り、その奥のショックや胸を引き裂かれるような悲しみ、無価値感、虚無感、絶望感など、最も深い痛みの感情にまで戻って行かなくてはなりません。
それが受け止められなかったので、その痛みを相手に投げつけているのが憎しみです。憎むことで大嫌いな相手と強烈につながってしまうというこの呪縛から自分を解き放ちたければ、自身が逃げているその痛みに向き直り、統合することです。
相手は、あなたがそこから逃げている。あなたの中にはそれがあるということを教えてくれているにすぎません。
「2次的感情」の奥にある、根の感情をしっかりと捉えていきましょう。