責任と自立、そしてコントロール

人の心は複雑なもので、癒されたい、楽になりたいと願っていても、その一方でしっかりと苦しみを抱え込み、手放してはならない、と思っている部分があったりします。それは、別の苦しみを避けるためにそうしているわけですが、ワークではこのように絡み合った心理構造を丁寧に解いていくプロセスを経ることがよくあります。

たとえば、私自身もかつて持っていた構造では、心が凍り付くような悲しみというものがありました。とても深く悲しんでいて、それがどうにも辛かったので、一生懸命それに向き合って癒そう、解放しようと、あらゆるメソッドやエネルギーを使って取り組んでいました。

けれど、まるで永久凍土のような悲しみは、一時的に柔らかくなることはあっても、決して融けていく気配はありませんでした。

一体これはどうしたことかと思いつつ掘り下げていくと、私はその悲しみが癒えてしまうことによって、大切な人とのつながりが切れてしまうような気がして、手放していくことを自分に許せずにいたのです。

つまり、癒えていきたいとは思っていても、大切な人との絆を手放したくはなかったのです。その時の私にとって、悲しみはその人とつながっていられる唯一の命綱のようなものだったからです。

このようなケースの場合、絆が切れてしまったときに浮上するであろう諸々の痛みの感情の責任を引き受けなければ、悲しみという絆を手放していくことはできません。「その人とつながっていなくても大丈夫な自分」になる課題が差し出されていたわけです。

裏を返せば、私は自分では支えきれないそれらの感情を、その人によって支え、埋め合わせていたということになります。これは健全な自立した存在の在り方ではないですね。

このままその人に依存し続ける不自由な在り方を続けるのか、または自身の痛みの感情の責任を取って自立した自由な存在になる道を選ぶのか、選択しなければならなかったのです。

恋愛や親子、仕事関係や友人関係など、あらゆる人間関係の中で、しばしば私たちが犯してしまう過ちは、自分の痛みを埋めるために、相手を利用するというパワーゲームです。

お互いのメリットとデメリットが丁度良い具合に調和しているときは、それでも心地よい関係を続けられるでしょうが、それは私たち本来の在り方を制限する不自然さをもたらすが故に、長く続くことはないでしょう。

必ずある時期に、「私はこんなにしてあげているのに、あなたは何もしてくれない」といった不満が募ってったり、「私の愛がほしければ、私にとって都合のいい存在でいろ」というような抑圧に耐え難くなって、苦しみを生むようになるのです。

自身の心の痛みは、根本的に自分自身で引き受けなければなりません。

けれど、私たちの多くはそれに対して荷の重さを感じて、「できない」と思ってしまいます。だから、誰かそれを引き受けてくれる人、私のそれをさせないで済む人を求め、それが満たされたように感じると、それを愛だと勘違いしてしまうのです。

結局それは愛などではなく、ただ「都合が良くて心地よい」というほどのものでしかありません。

だからと言って、心地良いこと自体が悪いと言っているわけではないことはお分かりいただけると思います。

私たちが本当に自身の気持ちに責任を取って自立した存在として相手に向き合ったとき、私たちは互いに相手の弱みを取引材料にして相手をコントロールしようとはしません。

そうした関係性で初めて生まれる互いへのリスペクト、思いやり、恐れなく相手を愛する気持ちなどは、パワーゲームの中で右往左往している内は、決してやってこないのです。

私自身の永久凍土のように思えた悲しみは、感情解放のワークをコツコツ続けるうちに、いつの間にか消えていました。

一度にそれが融けていったわけではないのですが、その時々に差し出されるものを順番に受け止めていくことで、ちゃんと解放に導かれて行ったのですね。

どんなに絡み合っていて、どこに解放の糸口があるのか分からないように見える状況においても、必ず糸口は差し出されています。

つまりそれが、「今この瞬間に感じているもの」になるわけですが、これを受け取ることを拒絶したとき、事態を思考で収めようとしてマインドの中に迷い込み、余計に訳が分からなくなってしまうのです。

ただ、そうなってしまうのにもちゃんと理由があります。差し出されているものが、自分にとって受け入れ難い、とても無理だと感じるとき、私たちはどうやってもそれを受け取ることができません。

もし受け取ってしまったら、自分が壊れてしまう、気が狂ってしまうと信じているわけですから、拒絶することで自分を守るのです。

こういう状態になって混乱し、行き詰っているときは、サポートを受けるタイミングです。

私自身、サポートを受けるのがとても苦手で抱え込んでしまう性質でしたから、良く分かるのですが、タイミングが自分で分からないのですよね。自分で何とかしなければ、人に頼るのは依存や甘えではないのかと思ってしまうのです。

自身の感情の責任を取るためにすることは、依存や甘えではありません。加減や境界が分からないというときも、取り敢えず飛び込んでみたらいいのではないでしょうか。

その時に、「本当に自分自身の気持ちの責任が取れるように、私に合ったサポートをしてくれる人と出会わせてくれるように」と、しっかりマインドセットをしましょう。

そして、その結果がいかなるものであったとしても、受け止めて進むことです。思ったように行かなくても、あなたがそれを失敗だと烙印を押して切り離さなければ、それは必ず次への肥やしになります。

あなたの歩みに、最高最善の守護と導きがありますように。

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