自分の思いや言いたいことを伝えようと思うのに、うまく伝わらなくてもどかしい思いをしている方というのは、少なくないのではないかと思います。そういう状態が続くと、だんだん伝えようとする気持ち自体が萎えて来て、「面倒臭い」となって適当に相手に合わせて済ませたり、「なんでもいい、どうでもいい」などと言って、自分の気持ちを飲み込んでしまうことが多くなります。
全部が全部というわけではないかもしれませんが、そのように自分の気持ちを伝えるのが苦手という方は、過去に何かしら、自分の気持ちを表現したことで傷ついた経験があるように思います。
たとえば、自分の本音を伝えたら相手から拒絶され、とてもショックだったのでそれ以来本心を人に話すまいと決めたとか、信頼していた人に他には言えない思いを話したらそれが漏れてしまってひどく傷ついたとか、誤解されてとても辛い思いをしたとか。
いずれにせよ、そうした体験がもしなかったとしたら、自分の気持ちをもっと気楽に、素直に伝えられているはずです。
そのようにトラウマになっている体験が癒されていないと、自分の気持ちを伝えようと思った瞬間、かつて体験した痛みの感情が浮上してきて、その痛みを避けるために深いところでブレーキをギュッと踏んでしまうのです。その結果、言葉が浮かんでこなかったり、出てきた言葉もしどろもどろで意味をうまく表現できていなかったりということがあります。
すると私たちは、自分を責めたり駆り立てたりして、さらにアクセルを踏んでどうにかしてうまくやろうとしますが、深いところで踏んでいるブレーキはそのままなので、ものすごくエネルギーは使っているけれどちっとも前に進まないという葛藤した状態になってへとへとに疲れてしまうというわけです。
毎回こんな状態になってはとてもやっていられないでしょう。だから、伝えるという状況や行為自体を回避するという行動パターンになっていきます。その時の気持ちが、「面倒臭い」「どうでもいい」といった言葉で代表される、やる気がないような、鬱陶しいので放り投げたくなるような気持ちなのです。
それにしっかり関わってしまったら、へとへとに疲れ切ってしまうばかりか、うまく伝わらずにまた傷ついてしまう、という構図になっていますから、ちょっとやそっとやる気を出して努力しても、浮上してくる痛みの気持ちに対処しなければ、そうした努力もなかなか続けられるものではありません。
このような心の構造が分かっていないと、気持ちを伝えることに絶望している人に、「どうしてちゃんと伝えないの!?口があるんだからできるでしょう?」と、怠慢と見える態度を責めたててしまうこともあるでしょう。
家族では子供さんとか、職場では部下など、目上の立場の人にこれをされると、なかなかに辛いものです。伝えたい気持ちが無いわけではないのに、伝えようとすると辛くてそれができないわけです。「やらない」ように見えますが、実は「できない」でいるだけなんですね。
確かに、そうした辛い気持ちに向き合うことから逃げているかもしれませんが、対処の仕方が分からないからそうせざるを得ない方は多いでしょう。
けれど、ご自身が向き合うことを決めているなら、ちゃんと対処する方法がありますし、癒えて行って、自分の気持ちをもっと楽に伝えられるようになることは可能です。
トラウマは、私たちの心に深く棘となって突き刺さり、抜かない限りはいつまでも痛いわけですね。けれど棘を抜けば、あとは問題なく癒えて影響もされなくなります。
棘のささった足で歩き続けることと、棘を抜いて完治した足で歩くことを思えば、その行動半径、動き方にどれほどの違いがあるか、想像に難くはないでしょう。
私たちが「苦手」だと思うことの多くは、掘り下げていけばこうした過去のトラウマの影響を見て取ることができます。だからこそ、目をそむけたくなりがちなその部分をよく見て、落ち着いて適切な手当てをしてあげることが飛躍のカギになるときもあります。
最初はちょっと気が重いですが、じっくりと腰を据えて見つめていく内に、案外自分で苦しみを過大に妄想してモンスターにしていたんだな、と気づくでしょう。
それは、逃げるほどに大きく成長し、逃れ難い影響を及ぼし続けますが、逃げずにしっかり向き合うほどに、正味のエネルギーを正確に把握できるので、余計な妄想でモンスターを大きく育て、そのプレッシャーに自ら押しつぶされるということをしなくなります。
なんだか気が重い、苦手、面倒だ、等と思ったときは、その奥に対処されることを待っているトラウマの棘があるのだと、どうぞ気づいてあげてください。
感情解放ワークでも、これらの言葉が出てきたとき、それを「感情のフタ」であるとみなします。つまり、その奥には確実に痛みの感情のエネルギーが眠っているのです。
棘の痛みから解放された自分を選ぶか、棘が痛まないように注意深く自身の行動を制限するか、さてあなたはどちらを選ぶでしょうか。