ある方から、「今この瞬間にいることが大切なのに、過去の出来事に起因する感情に向き合うことに何の意義があるのでしょうか?」というご質問を受けたので、これについて書いてみます。
感情解放ワークは、私が師と仰ぐレナード・ジェイコブソンの教えを実践していく中で生まれたものです。彼はとても深いレベルで覚醒しているマスターで、桁違いに深いプレゼンスを体現されていると私は感じています。
彼の教えは、何よりも「今この瞬間」に在ること(プレゼンス)を重視します。リトリートに参加すると、期間中は繰り返し会場のみんなを深いプレゼンスに導きます。
参加者の誰しもが、このプレゼンスをそれぞれのポジションから経験していると思いますが、それは言葉ではとてもいい表せない、素晴らしい体験です。ここが私たちの居るべき本来の場所なのだ、と彼は実際にそこに導いてくれるのです。
彼の教えは2ステップあります。まず、プレゼンスに瞬間的に居ることはたやすいことです。目の前に在るペンや携帯、ドアノブやティッシュボックスなどとともに居るということを、思考しないで体験するのがステップ1です。
ステップ2は時間をかけて実践していくステップで、今この瞬間に深く根付いていくプロセスです。このプロセスの中に、抑圧された感情のエネルギーを解放するという項目があります。
なぜそれが必要かというと、私たちがプレゼンスに居る時、抑圧された感情のエネルギーがたくさんあると、それが私たちをプレゼンスから引きずり出し、今この瞬間にいられなくなってしまうからです。
たとえば、仕事中に家族が事故に巻き込まれたという連絡が入ったなどのケースを想像してみて下さい。
その状態で、今この瞬間にいてくださいと言われても、家族が今どんな状況に在るのか、気になって気になってとても今この瞬間には居られないでしょう。思考が絶えず駆け巡り、良くない結末を妄想をしてしまったりして、ソワソワと心は落ち着かないでしょう。
私たちは、何か特別に心がかき乱されるようなことが無くても、実はこれと同じような状態に居ることが多いのです。
ためしに、1分間思考しないでいることにチャレンジしてみましょう。今からスタートです。
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どうですか?10秒くらいできたでしょうか?30秒もできたとしたら、大したものだと思います。そういう方は、何か日ごろから訓練をされていらっしゃるのでしょう。
このように、心に浮上する感情のエネルギーは、容易く私たちの意識を今この瞬間から、マインドの思考の中に連れ去ってしまいます。故に、抑圧された感情のエネルギーのチャージ(蓄積)を解放し、少なくしていくことが大切なのです。
レナードの教えを実践していく中で、私なりにどうしたら抑圧された感情を生き切り、完了させることができるかという部分を体系化させてできたのが、今お伝えしている感情解放のワークです。
過去の出来事に由来する、抑圧された感情のエネルギーは、過去のストーリーを伴っています。あの時あの人がこうしてあーして、だから私はとても傷ついて怒っている、といった具合です。
感情のエネルギーとしては、ただ単に「怒っている」「悲しい」「悔しい」「惨めだ」というだけのものですが、「あの人があーしてこーして」という部分がストーリーであり、これは感情ではなく思考に属するものです。
私たちは辛いことがあると、このストーリーを思考することによって、その時感じていたはずの感情や感覚を感じないようにしてすり替えます。
こうすると生々しく辛い感情や感覚を感じないで済むからなのですが、そうしてしまうと感情や感覚のエネルギーは消えることなく、身体の中に残ってしまいます。だからこそ、何度も繰り返しいつまでも同じことを考え続けてしまうようになるのです。こうして感情や感覚は、私たちの中に深く抑圧されます。
レナードは今この瞬間にいることを何よりも重要視しますが、唯一、私たちのマインドのストーリーの中に入っていく時があります。それは、この感情のエネルギーを解放するときです。それがプレゼンスにとって必要だから、そうするのです。
こうした感情のエネルギーのチャージが少なくなってくると、プレゼンスに居ることはずっと容易くなります。マインドに引きずられにくくなり、だんだんとプレゼンスに根付いていくようになるのです。
だから過去に向き合うのは、ぐずぐずと過去の出来事をあーでもないこーでもないとラベル付けをするためでもありませんし、感傷に浸るためでもありません。何よりも、今この瞬間を生きることができるようになるためなのです。
この辺りを取り違えて、過去は終わったこととして触れないようにしている方も多いと思います。それでプレゼンスに根付いていけるのならOKですが、できていないのなら、アプローチを変えてみる必要があるのかもしれません。